last updated 1997/08/22
第99話(全130話)
ドラゴン!(1/3)
12 ドラゴン!
ドキッとなってピートは首をすくめて身を強ばらせる。あのモノレールの持ち主が声を聞き
付けて走ってきたのだろう。そう覚悟した。もしかしたら、ぼくがモノレールを走らせるのを
見られたかもしれない。そうしたら弁解はできない。ぼくじゃありません。ネズミが盗んで行
きました、なんて言って信じてもらえるだろうか?
「どこから来た」
再び声が聞こえる。ピートは観念して振り返った。こうなった以上、殊勝に振る舞うのがい
ちばんだと思った。振り返ったピートの視線の先にいるのは
フィンフィンだった。
フィンフィンは壁に開いた通気口のダクトの中から顔だけ出して、好奇心いっぱいの目でピ
ートを見ている。
「フィンフィン!」
また大きな声を出してしまう。ピートは慌てて自分の口を塞ぎ、フィンフィンへと歩み寄る
。フィンフィンはもう一度訊いた。
〈何してるんだい?〉
「きみだったのか。全然違う声に聞こえたよ。すごく怖い声に」
〈それはピートが勝手に怖い声だと思い込んだからだよ。心の声ってのはね、本人の心にもの
すごく影響されるんだもの。ピート、すごく怖がってるんだね、いま〉
ピートは声に出さずに心で応える。そのほうが安全だと思ったから。
〈もちろんだよ。脱走したんだもの〉
〈じゃ、ぼくたちと一緒だ〉
〈ワーターも一緒なの?〉
〈ワーターともうひとり。囚われの子供を連れてきた〉
言ったフィンフィンの背中にちいさなドラゴンが乗っているのにピートは気づいた。
「ドラゴンだ!」
思わず大声を上げてしまう。
「ドラゴンがいる!」
〈シィ! 大きな声だしちゃ駄目だよ、ピート〉
「あ」
と口を押さえながらもピートはまだ「わあ、わあ」と心の中で驚き続けた。
〈そんなに驚くってことは、やっぱりドラゴンはきみの天敵でもあるの?〉
〈天敵?〉
〈本当はね、フィンク族はドラゴン族を目にすると死んだふりをしてやり過ごしたくなるんだ
。たぶん本能とかって奴だと思うけど〉
〈ぼくの天敵なんかじゃないよ。むしろぼくの憧れだよ!〉
〈憧れ?〉
尋ねた時、フィンフィンは誰か見知らぬ人間がこちらに近づいてくる気配を察知した。
〈質問は後回しにしよう。きみもここへ隠れたらいい。早く!〉
フィンフィンはダクトの中を後退して、マスターが入れるくらいのスペースを空けた。マス
ターは急いでダクトの中に這い上がって身を隠す。どうやらフィンフィンかマスター、あるい
は両方を捜しているらしい男たちがダクトの前を走り過ぎて行った。マリカを取り押さえてい
た男たちだとピートは見て取った。
「逃げたのがバレたみたい」とピート。
〈ということは〉
「うん。無駄話は後にしよう。すぐマリカを捜し出さなきゃ」
〈居場所はわかってる〉
「わかってる?」
〈忘れちゃ困るな。ぼくは心が読めるんだよ。いまマリカが何を考えてるのかだって、ちょっ
と雑音混じりだけどちゃんと聞き取れる。その声を追跡すればいいだけさ。ワーターもマリカ
の居所だけは、もうわかってるみたいだよ〉
ブヒヒン。とワーターが鳴いてうなずいた。ように見えたが、じつはピートたちを急かして
いるだけのようだ。ワーターの気持ちがわかって、ピートはフィンフィンを先頭にしてダクト
の中を這い進みはじめる。時折、フィンフィンの背中にちょこんと乗っているドラゴンに目を
やって、彼は時と場合をわきまえずに知らず笑みを浮かべていた。
ドラゴンだ! ドラゴンがぼくの目の前にいる。あの御伽話の世界に君臨する最大にして最
高の生き物が、本当にぼくの目の前で呼吸をしてる!
ピートの胸は高鳴った。
(つづく)
Back Number
presented by son@ch-teo.com
Copyright(C)1997 FUJITSU LIMITED.
All Right Reserved.